第685回 「モルゲン、明日」
ドイツと日本は似ている部分が多いと言われ、よく比較される。たとえば第二次世界大戦で国土が焼野原となりながら短期間に経済的復興を果たしたという点だ。自動車産業が強いところも共通する。
ところが2011年3月11日の福島第一原発事故後の対応はまったく異なった。事故から3カ月後の6月、ドイツは2022年までにすべての原発を廃炉にすることを決めたのに対し、事故を起こした当の日本は完全収束の見通しが立たないにもかかわらず再稼動が始まり、原発を海外に輸出しようとまでしている。市民感覚からすると、日本政府は事故の重大性を軽く考えているように見える。
この違いはどこから生まれてくるのか。亡き母の脱原発の遺志を継いだ前作「わたしの、終わらない旅」(銀幕閑話 第534回 で紹介)を製作した坂田雅子監督は、その答えを見つけたくて今度はドイツに向かった。
そこで出会ったのは、電力政策という国の基本方針を維持・推進する事業を政府や大手電力会社に任せっきりにするのではなく、自分たちで考え、送電線を買い取ったり、自力で自然エネルギーを作り出す多くの人々だった。都市で、農村で、学校で、そして教会でも脱原発と自然エネルギーへ情熱を燃やし、声をあげるだけでなく実践する人々が大きなうねりとなって次々に現れたのである。
もちろん運動が突然生まれたわけではない。ヒトラーによる独裁政治を許したドイツはその反省から戦後長らく「政治には関わりたくない」という気持ちを国民に持たせたという。坂田監督のインタビューに作家のグードルン・パウゼバングさんはこう答えている。
「政治に関与しないことが間違いと気付くのに何年も時間がかかりました。そして我々ドイツ人が民主主義者になるまでに何年もかかりました。自分で考えて行動し、世界への責任を持つと理解するのに時間がかかりました」
サンクト・オッティリアン修道院のヨゼフ神父も続けて話す。
「同じことを繰り返さないために歴史に学ぶのです」
監督の取材に答えた多くの人々が異口同音に指摘したのは、第二次世界大戦での自国の行いを深く反省していた人々が思ったことを話し出すきっかけになったのは1968年の学生運動だったという。
環境問題専門家のウルスラ・シェーンベルガーさんは「ドイツの市民運動は68年の学生運動が出発点だったと思う。大学だけでなく社会の多面にわたって文化の変革を起こしました。学生たちは古い硬直的な社会の仕組みを壊そうとしたのです」と振り返る。
そこで生まれた反原発・環境保護の意識と情熱がやがて政治に向かい、緑の党という政党を誕生させるまでに力を付けた。元緑の党議員のハンス・ヨゼフ・フェルさんは強調する。
「この15年間で自然エネルギーに投資したのは大手電力会社ではありません。95%は市民、農民、協同組合、地域の電力会社です。これは大きな転換でした。エネルギーシステムがより民主的になったのです。自分たちの使うエネルギーを自分たちで作れるようになったのです」
「原発 NO!」と反対するだけでなく対案を出し、実際に原発に代わる自然エネルギーの可動容量を増やしてきたドイツ。そろそろ日本もドイツに見習って市民の手でもできることから始めてみてはどうだろうか。次の世代に大量に積み上げられた放射性廃棄物の後始末を引き継ぐのと、より簡便で安くなった新しい自然エネルギーを手渡すのとどちらが喜ばれるか、一目瞭然だと思うのだが。
「モルゲン、明日」 は10月6日よりシネマハウス大塚ほか全国順次公開。また9月23日、25、27日にポレポレ東中野でも上映
【紀平 重成】
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