第687回 「あの頃、君を追いかけた」

浩介(山田裕貴=左)は真愛(齋藤飛鳥)からオリジナルの問題を出題され特訓を受ける (C)「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ
主人公が現在の地点から過去を振り返るという内容のアジア映画が最近目立ち、またヒットを重ねている。ではその作品のリメークにも「振り返る映画=成功の条件」は当てはまるだろうか。そんなことを考えてしまうのは、韓国映画「サニー永遠の仲間たち」の日本版「SUNNY 強い気持ち・強い愛」が話題を集めたばかりなのに、今度は台湾映画「あの頃、君を追いかけた」の日本版が公開されたからである。この作品もヒットすれば、「過去を振り返る」と「リメーク」の組み合わせも興行を成功させるための大事な条件になるかもしれない。

浩介と真愛を加えた7人は卒業後の進路を語り合う (C)「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ
本作は台湾の人気作家ギデンズ・コー監督が自伝的小説を自ら映画化し、地元台湾や香港で記録的なヒットとなった学園青春物語を長谷川康夫監督が日本に置き換えて作ったリメーク作品。
地方都市の高校に通う浩介はクラス1の優等生の真愛(まな)から幼稚と言われるほど悪ふざけを繰り返し再三にわたって授業が中断。怒った教師が真愛の前に浩介を座らせ彼女をお目付役に任命する。最初は真面目な彼女を疎ましく思っていた浩介だが、話してみると彼女の可愛らしさに気付き、一方の真愛も浩介の粗雑な行動の陰に隠れた意外な優しさに触れて徐々に2人のぎこちない交際が始まる。これに真愛の親友詩子と浩介のいたずら仲間4人を加えた仲良し7人は自由で気ままな高校生活を満喫する。
ギデンズ・コー監督のオリジナル作品を見たことがあれば、ほぼ同じカット割りが多用されていることに驚くかもしれない。長谷川監督はなぜそこまでしたのか。それは長谷川監督のオリジナル作品へのリスペクトではないかと思う。たとえば高校を卒業して真愛とは違う大学で寮生活を送る浩介が「3・11」を想起させる大地震が起きた際に、すぐ真愛の安否を確認するために携帯を頭上高く挙げて不安定な電波をキャッチしようと頑張るシーン。あわてて外に飛び出した他の学生たちも同じように手を挙げたまま歩く姿はオリジナルと同様、本来は必死な行動なのにどこか祝祭的な儀式のようにも見えた。
価値観や自分自身を見つめる思いが高校時代の時とは微妙に変わってきて互いの連絡も間が空いてしまった2人にとって、余計なことは考えずに相手の安否を確かめ今の思いを率直に伝えることができる極めて大事な場面。あえて同じ構図にしたのは2人の本心を明らかにするのにこれ以上ふさわしい場面はないと考えたであろう原作者の思いを尊重したからに違いない。

休みを利用して遊びに行った場所は……? (C)「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ
監督の意図はわからないが、舞台となった高校の制服には学校名だけでなく生徒の名前や所属番号まで縫い付けられている。これもオリジナル作品と一緒だ。制服に校名や名前を表示することは台湾ではおなじみだが日本の高校ではあまり見かけない。オリジナル作品を大切にしようとするあまり長谷川監督は制服も原作どおりにしようと考えたのかもしれない。

ポニーテールの真愛を茫然と見つめる浩介(前列中央)ら5人 (C)「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ
もうひとつ感心したのは、浩介たちの通った高校は日本の高校なのに、大学時代に2人がローカル線に乗って遊びに行った場所がいつの間にかオリジナル作品と同じ台湾の平渓線沿いの街に変っていたことだ。もしかしてこの作品はパラレルワールドを描いていて、2人は双方の世界を生きていると考えてもいい作り方になっているのだ。
台湾ロケまでして作品の解釈の幅をより自由にしているのは、一方では原作に忠実であろうとしながら、オリジナル作品にはない工夫を盛り込んだためともいえる。個人的には解釈の幅を広げつつ、台湾版よりも分かりやすい内容になっていると感じた。
ギデンズ・コー監督には2011年と15年の2回、インタビューしたことがある。「大ヒットだね」と言われるよりも、「心を込めて丁寧に撮っているね」と言われた方がうれしいと、独特の表現で作品への愛情を語っている。本作の長谷川監督もオリジナル作品へのリスペクトを忘れず心を込めて丁寧に撮ったと言えないだろうか。

浩介のことを語り合う詩子(松本穂香=左)と真愛 (C)「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ
台湾版はクー・チェンドンとミシェル・チェンが、日本版では山田裕貴と齋藤飛鳥がそれぞれ共演している。
ところで日本と台湾はこの20年間だけでも繰り返し大きな地震があり、そのたびに互いに支援をしている間柄だ。しかも残念なことにというべきか、地震を描いた作品が徐々に増えており、リメーク作品を作っても地震のシーンを違和感なく受け入れられるという特殊な関係にある。フィリピンやインドネシアも同じ地震国。せめて映画を通じ地震国同士共感を寄せ合うことができたらいい。
「あの頃、君を追いかけた」は10月5日より全国公開
【紀平 重成】
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