銀幕閑話 第655回 「目撃者 闇の中の瞳」

「目撃者 闇の中の瞳」の一場面 (C)Rise Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved.
台湾映画のイメージを根底から変えるような作品の登場である。なぜなら、本作が台湾ではおなじみの学園を舞台にした青春ものや芸術性を追求した作品ではなく、これまで主流にはなり得なかったサスペンス・アクションだからだ。しかも二転三転する展開は先が読めず、さらにスピーディーなカメラワークはライブ感にあふれ、まるで自分が劇中で事件を目の当たりにしているかのよう。台湾映画の可能性を広げる旬の味わいをお楽しみいただきたい。

上司のマギー(シュー・ウェイニン) (C)Rise Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved.
新聞社の見習生であるシャオチーは、雨が激しく降る夜、台北市郊外の山中で当て逃げ事故を目撃する。運転席の男性は死亡し、助手席の女性も重体という重大事故。シャオチーは逃走する車をかろうじて撮影するが、事故は記事にはならず、犯人も捕まらなかった。
9年後、やり手の記者となったシャオチーは、買ったばかりの中古車が9年前に目撃した事故の被害車両だったと知る。すると周りで不可解な事件が起き始め、彼の記者魂に火が着く。それは仕組まれたものなのか、あるいは自らが招いたことなのか?

9年前の事故車両に乗っていた女(アリス・クー) (C)Rise Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved.
本作の見どころは、随所に伏線を張り巡らした脚本のうまさだろう。マスコミ、警察、政治家、車の修理工、当て逃げされた後に病院から逃亡した被害者。その登場する誰もが事件の推移とともに意外な本性を露わにし、正義を振りかざすだけでは済まなくなる。浮かび上がるのは、本来一つであるはずの「真実」が語り手が変わるたびに入れ替わってしまうという、映画監督なら一度は手がけたい作りになっていることである。観客は何度もこれが「真実」かと思うたび、更に驚愕の「事実」を突きつけられるのだ。

編集局長から政界に乗り出すチウ(クリストファー・リー) (C)Rise Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved.
一方、手持ちカメラならではの躍動感や臨場感も見ごたえがある。チェン・ウェイハオ監督は「アメリカのスリラー映画のようにゆっくりとしたペースではなく、速いテンポをベースとすることで作品の雰囲気を明確にしました。全編、手持ちカメラで撮影してリアルさを出し、観客に自分も目撃者であるかのように感じてもらえるようようにしました」
(映画プログラムから)と狙いを語る。
その意図は成功したと言えるだろう。2017年春の台湾公開で評判となり、リピーターが続出。公開2週目の方が公開週より多いという大ヒットで、その余勢をかって、台湾金馬奨5部門ノミネートを達成した。
アクション、サスペンス、そして繰り返されるどんでん返し。エンターテインメントの要素が詰まった作品ながら、誰しも心に他人には言えない闇を抱えるという人間の本質を考えさせる作品は挑戦的であり、見応えがある。

記者のシャオチー(カイザー・チュアン=左)とマギーの二人が見たものは? (C)Rise Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved.
そうなるとチェン監督の次回作が待ち遠しくなるが、前作に「紅衣小女孩」(2015年・日本未公開)があり、続編の「紅衣小女孩2」(17年)も大ヒットしているので、是非ともこの2作の日本公開も期待したいところだ。
ちなみに主演のシャオチー役にカイザー・チュアン、上司のマギー役にシュー・ウェイニンをあて、それぞれ好演しているほか、アン・リー監督の息子のメイソン・リーも存在感ある警官役で出ている。
「目撃者 闇の中の瞳」は1月13日より、新宿シネマカリテほか全国順次公開。【紀平重成】
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「目撃者 闇の中の瞳」の公式サイト
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